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独占インタビュー:「味全ドラゴンズ」林桀晨選手 野球文化から見る日本と台湾、コロナ対策の現状

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 日本のプロ野球が6月19日、ついに開幕する。コロナウイルスの影響で例年より約3カ月遅いスタートとなった。そこで、今回は世界で真っ先にプロ野球を開幕させた台湾の「味全ドラゴンズ」林桀晨選手に、台北経済新聞編集長の秋山光輔が独占インタビューを行った。

秋山:日本への留学経験もある林桀晨選手に本日は全編日本語でインタビューを行います。まずは読者の皆さんに自己紹介をお願いします。

林:台湾プロ野球チーム「味全ドラゴンズ」背番号53番の林桀晨です。右投げ左打ちの内野手です。昨年度から味全ドラゴンズに所属し、今年で26歳。高校時代に岡山共生高校の野球部に留学、その後、奈良産業大学へ進学し、約5年間日本に留学しました。大学時代から野茂英雄さんの台湾での通訳を担当し、昨年度は味全ドラゴンズと契約されていた川崎宗則選手の通訳兼選手として味全ドラゴンズと契約し、今年は選手として支配下登録されました。味全ドラゴンズは20年前に3連覇した後に一度解散し、昨年再結成した粘り強いチームです。選手の年齢層も若く、元気と「雑草魂」のあるチームだと思います。

秋山:なるほど。これまで日本と台湾の2カ国で野球をしてきたのですね。日本と台湾で野球文化の違いを感じることはありますか?

林:国民性がプレースタイルに反映されていると思います。日本は、世界で通用する「細かな」野球で、綿密な作戦に緻密な技術を求められます。台湾は逆に、荒くていい、豪快なプレーを求められます。ピッチングよりもバッティングが強い選手が多い。今は、僕のように日本に留学したことある選手が20人ほど台湾プロ野球界にいるので、日本から学んできたことを生かした化学反応を期待されています。味全ドラゴンズの蕭一傑コーチのように日本のプロ野球を経験して台湾の球界に戻ってくる人も多いです。

味全ドラゴンズ本拠地斗六球場でバッティングの練習を行う林桀晨選手

秋山:確かに映画「KANO」の中でも「漢民族は打撃が強い」というくだりがありましたね。そもそも、映画「KANO」の時代から日本と台湾の野球のつながりはありましたが、今もなお親善試合など深い交流が続いているように見受けられます。他のスポーツよりも特に野球の交流の頻度は多く感じます。これには何か理由があるのでしょうか?

林:王貞治さんや郭泰源さんら、日本プロ野球界で活躍された大先輩方の影響は非常に大きいと思います。最近は、千葉ロッテマリーンズや楽天イーグルス等の日本のチームが台湾に来て交流試合を行っていました。

秋山:日本のチームが台湾に来て試合を行うということは、台湾人のプロ野球ファンは日本の野球にも興味があるんですね。私自身がインバウンド従事者なので、日本のプロ野球は台湾から旅行客に足を運んでもらえるコンテンツの一つだと感じています。台湾人を日本の球場などに集客したい場合、何がポイントになりますか?

林:台湾人は日本で頑張る台湾人を応援します。そのため、高校から留学している選手のインタビューや密着取材をやってみると面白いと思います。学校生活や、野球部の練習の様子を多くの台湾の人に見てもらえたら、一般の方も日本の野球により興味を持ってくれるでしょう。

秋山:林選手の高校留学時代は、どんな様子でしたか?

林:野球部の上下関係に初めはびっくりしました。台湾より厳しかったので驚きましたが、現在西武ライオンズで活躍されている呉念庭選手のように面倒を見てくれる優しい先輩もいました。呉先輩にはこれからも日本で頑張ってほしいと応援しています。実は、僕が留学した岡山共生高校の野球部は今年で廃部になるんです。今年はコロナウイルスの影響で甲子園大会が春夏共に中止になってしまったので、完全燃焼できないまま廃部を迎える後輩の気持ちを考えると辛いです。

味全ドラゴンズ本拠地斗六球場で守備の練習をする林桀晨選手

秋山:コロナウイルスの影響で言えば、日本のプロ野球は無観客ながら6月19日にようやく開幕となりました。対して台湾は世界最速でプロ野球が開幕したことが世界的にもニュースになっていました。台湾政府とCPBL(中華職業棒球大聯盟)の今回のコロナ対策について教えてください。

林:まず政府が1月に空港で入国者への検疫を強化し始めた段階でCPBLも対策を始めました。具体的には選手のバス移動時にはマスクが配布され、選手が球場に入る際に毎日検温を行っています。2軍の審判は試合中もきちんとマスクを着用していました。清明節の連休時には観光地に人が密集し、感染拡大の恐れがあるため、その場所へ行った人に政府からアラートメールが送られましたが、それを受け取った人は隔離対象者となり14日間の自宅隔離をしなければなりません。チームメイトの一人が、偶然実家が観光地の近くだったことからアラートメールの受信対象者となってしまい、隔離されていました。政府のアラート以外にも、各チームがCPBLと連携して報告しなければならず、陽性者や隔離対象者は14日間試合に出ることはできません。もし虚偽の報告をした場合はチームが罰金等のペナルティーが定められていて、一人でも陽性者が出た場合は台湾のプロ野球は中止となり開催されません。

秋山:選手の皆さんも徹底して感染防止に取り組まなければならない訳ですね。では観客はどうでしょう?

林:1軍も2軍も今は人数制限付き、ソーシャルディスタンスを保つことを条件に観客の入場が開放されました。開放当初は実名制の入場で、もちろん入場時に検温も実施。球場から感染者を出さないように関係者全員が努めています。やはり選手としても観客の応援があった方が興奮してやる気が出ます。味全ドラゴンズは再結成したチームなのでCPBLのルール上、来年まで1軍登録ができないので今は2軍でプレーしています。他のチームの2軍にはチアガールがいませんが、味全ドラゴンズはチアガールが居るので、ファンも選手もより一層盛り上がっています。

ファーストを守備する林桀晨選手

秋山:林選手の今後の目標は何ですか?

林:通訳を通して素晴らしい野球の先輩方にいろいろな場所に連れていってもらえて、いろいろな経験をさせてもらいました。この大先輩から通訳の経験を通して知識を吸収できるのは僕にしかできない特権だと思います。まずは台湾のプロ野球で1軍の選手として頑張って、将来的には日本野球と台湾野球の交流を頻繁に行って台湾野球の発展に貢献したいと思います。

秋山:最後に読者の皆さんにメッセージをお願いします。

林:日本のコロナウイルスの状況が一日も早く良くなることを祈っています。野球ファンの皆さんは今、球場に行けないと思うので、在宅時間にぜひ台湾のプロ野球もネットで見てほしいです。味全ドラゴンズを応援してもらって、コロナが落ち着いたらぜひ台湾に応援に来てください。皆でこの困難を乗り越えましょう。

秋山:ありがとうございました。

林桀晨選手と台北経済新聞編集長秋山光輔


味全ドラゴンズ本拠地の球場へ取材に行った際に、林選手のインタビューでも話題に上がった蕭一傑コーチにも少し話を聞いた。高校から日本に留学し、その後選手として阪神タイガース、福岡ソフトバンクホークスでプレー。台湾に戻り引退後に通訳として1年間、日本ハムファイターズに在籍。日本プロ野球と台湾プロ野球の大きな違いは「食事面」だという。日本のプロ野球はケータリングで食事を用意されるが、台湾だと弁当が用意されるという。また、日本の選手、特にピッチャーはレベルが違うとべた褒め。今後は台湾で、日本のプロ野球で自分が経験したことをコーチとして台湾の若者に伝えていくと言う。

味全ドラゴンズ本拠地でピッチングコーチとして指導する蕭一傑コーチ

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