PROJECTbyH.は台湾を拠点に活動するファッションブランドで、ミニマルなデザインと素材の質感に特徴がある。デザイナーの2人はそれぞれ異なるバックグラウンドを持ちながらも、「人と服の距離を近づける」という共通の思いを込めて、日々服作りと向き合っている。今回は、PROJECTbyH.のデザイナーの2人に話を聞いた。
ーーー「PROJECTbyH.」ブランドを立ち上げたきっかけや、ブランドの核となる理念・コンセプトについてお聞かせください。
Henryさん :もともと私はメンズウエア、Naomiさんはレディースを学んでいたが、実は体格がとても似ていて、服のサイズもほとんど同じ、靴でさえも同じくらいだった。そこから、「男女問わず着られる服を作りたい」という考えが自然に生まれた。できるだけジェンダーに縛られない服を作りたい、そして「分類」や「枠」に人を当てはめないようにしたいという思いが、ブランドのコアとなった。
外注や工場生産は一切行わず、あえて全ての工程を手作業で行うことにもこだわっている。自分たちに課したもう一つのルールが「天然素材のみを使う」こと。ボタンやジッパーからタグに至るまで全て手作りにこだわっている。化学繊維を用いたり、工場に外注すれば早いが、環境に与える悪影響は巡り巡って人の身に返ってくる。
ファストファッションのように効率を追い求めることにも疑問を感じている。着る人の肌や生活に寄り添い、永く愛される服を作るため、素材選びにも妥協はない。こうした考えの積み重ねが、「PROJECTbyH.」というブランドの土台になっている。
Naomiさん:ブランドのコンセプトを一言で言い表すなら「意識的に選択を行い、その選択を通じて未知の世界を探求すること」だ。
ーーー今後のファッション業界の発展について、どのような見解や対応策をお持ちですか?
Henry さん:近年はファストファッションの環境負荷に対する問題意識が高まり、世界的にもその規制や見直しが始まっている。大量生産・大量消費ではなく、「良いものを必要なだけ買う」意識が少しずつ広がってきていると感じる。
私たちがもともと信じていた価値観が、今ようやく時代に追いついてきた、そんな感じ。
これまで10年以上にわたりファストファッションが加速してきた中で、それに対する反動が今ようやく起き始めている。人々の中にも「良いものを長く使いたい」「無駄な買い物をしたくない」といった意識が育ってきている。「安ければ何でもいい」ではなくて、「素材や背景にも目を向ける」という流れが出てきたのは、すごくいいことだと思う。
食や健康の分野で培われた「環境への配慮」や「より良い暮らしを求める意識」は、今やファッションにも広がりつつある。こうした価値観が、これからのファッション産業にもますます反映されていくはずだ。
台湾の気候に適した麻を使用したパンツ
ーーー日本のファッション文化について、どのような印象や考えをお持ちですか?
Henryさん:日本のファッション文化はアジアの中でもずっと注目されてきた存在で、とても印象深いものだと思う。私たちがまだ服作りを始める前から、ある意味で「指標」的な存在。日本人の服の着こなしを見ていて感じるのは、「表面的なファッション」を通して「内面の感情や個性」を外見に体現するのが上手だということ。
日本の伝統や職人精神に対する敬意やこだわりは非常に強く、服作りにおいても、その精神が深く関わっている。藍染めやデニムなど、古い技術を守り続けながら現代につなげている点は、日本特有の文化的価値だと感じている。
日本のファッションは単なる見た目の個性ではなく、背景にある思想や歴史、哲学(禅や侘(わ)び寂(さ)び)といった「深さ」があり、私たち自身の創作も大きな影響を受けている。
こうした精神や文化が世界にも広がり、「日本らしさ」として多くの人々の心に強く印象づけられているのだと考えている。
タグでさえも手作りだ
ーーー台湾ブランドとして、デザインの中でどのように台湾らしさや文化的な特徴を表現していますか?
Henryさん:私たちはデザインをする上で、「台湾らしさ」を意識的に視覚やモチーフで表現しているわけではない。自分たちは海外で育った経験があり、台湾をむしろ「外から見る視点」を持っている。そのため、廟(びょう)や原住民文化などを直接使うのではなく、台湾の精神性やマインドセットを、より抽象的な形で表現している。
台湾という国は、国際社会では存在が曖昧でありながらも、半導体や食文化などで世界に大きな影響を与えている。この小さな国が持つ「しなやかさ」や「粘り強さ」、「無邪気さ」と「優しさ」こそが、私たちのものづくりに根ざしている「台湾らしさ」だ。
効率よりも丁寧な手仕事を選び、誰も気にしない細部にまでこだわる。それは、困難な状況でも地道に前に進む台湾人の生き方と重なる。私たちのブランドは、そうした「目に見えない台湾の精神」を体現しているのだと思う。
2パターンの着方ができるアウター
ーーーデザインの過程において、影響を受けたデザイナーやブランドがあれば教えてください。
Naomiさん:特に印象に残っているのは山本耀司(Yohji Yamamoto)。彼の服は一つの「主題」を中心に構成されていて、それ以外の全てがその主題を支える要素になっている。特にレディースの服においては、女性の体の曲線美を見事に表現しながらも、決して露出が多くない。例えば肩を少し見せるだけで、他はしっかり覆っている。これこそが東洋的な美意識の本質だと思う。
誰が着るかによって異なる魅力が引き出される。女性が着れば優雅に、男性が着れば力強く映る。それこそが、私たちの「絶対的に中性的な」服作りの本質だ。
天然素材を使用したボタン
ーーー日本でも販売していると伺いましたが、今後の日本市場での展開についてどのような計画や興味がありますか?
Henryさん:私たちのブランドは大衆向けではなく、共感してくれる人と「対話」を大切にしている。ただかわいい、かっこいいだけじゃなく、背景やコンセプトまで含めて理解してくれる人たちに届けたい。だから日本のショップとの協業においても、単に「売れるから」ではなく、本当に私たちの作品を好きで、毎回の新作を楽しみにしてくれているような人たちとつながっていきたい。
今の時代、数字やトレンドばかりが重視されがちですが、僕たちはもっとシンプルに、「自分が本当に好きなもの」を大切にしていきたい。それは服でも、コーヒーでも、ラーメンでも同じ。誰かの「好き」が丁寧に積み重なったものに、人は自然と引かれるのだと思う。ファッションを単なる商売としてではなく、「暮らしの中で人と人をつなぐもの」として捉えている。
アウターの裏地の見えないところまでもこだわりがある
Henryさん:最後に日本のお客さまには感謝の気持ちを伝えたいです。本当に、皆さんの応援や励ましがあってこそ、私たちは続けてこられた。このようなブランド運営は、時にとても孤独で、成果がすぐには見えないもの。でも、大阪や日本の店に行くと、長年応援してくださっているお客さまがいて、「この服は一生大切にしたい」「こんな服を作ってくれてありがとう」と言ってくれる。その言葉に、私たちは何度も救われてきた。日本には素晴らしいブランドがたくさんある中で、私たちのような小さなブランドを見つけ、支持してくださっていることに深く感謝している。皆さんの存在が、私たちの原動力であり、自信でもある。