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インタビュー:沖縄と台湾の架け橋 沖縄県産業振興公社台湾事務所 安次嶺修所長に聞く

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台北を拠点に沖縄県と台湾の交流の架け橋となる「沖縄県の在台湾公的窓口」として活動する沖縄県産業振興公社台湾事務所。今回は、インバウンド事業において長年沖縄観光に関する情報を台湾向けに発信してきた「台北経済新聞」編集長・秋山光輔が、同事務所の安次嶺修所長にインタビューを行いました。

秋山:今年、台北事務所の所長に就任されましたが、まずはその経緯や、台湾に対する印象についてお聞かせください。
安次嶺:もともと「沖縄県民のためになる仕事がしたい」と漠然と考えていましたが、いつの間にか「海外で働きたい」という思いへと変化していました。前職では観光振興を担当し、主に日本人観光客を沖縄へ誘致する仕事をしていました。


秋山:なるほど。現場にいると、沖縄のインバウンド市場の盛り上がりを実感しますよね。沖縄にいると外国人観光客の増加を肌で感じることが多いのではないでしょうか?
安次嶺:そうですね。特に県庁周辺では、日本人よりも外国人の方が多く感じるほどです。
秋山 沖縄は日本の中でも独特な文化や雰囲気がありますよね。以前、仲本前々所長に本気で移住の相談をしたこともあります。オープンな人柄の方が多く、子どもたちものびのび育てられる環境だと感じています。弊社では5年ほど前から沖縄リゾートウエディングの台湾プロモーションに携わらせていただき、オンラインイベントやリアルイベントを通じて多くの台湾人夫婦やカップルに沖縄でのウエディングの素晴らしさを伝えているのですが、その場で結婚式やウエディングフォトを申し込む台湾人夫婦も多く、結婚式の場合は1組で平均60人も参列しています。多くの台湾の人が沖縄に足を運び、その魅力にハマってリピーター化していますね。


安次嶺:私が台湾に来たのは13年前の社員旅行が最初でした。当時は「ご飯がおいしいな」くらいの印象でしたが、実際に赴任してみるとその印象は大きく変わりました。店に入って迷っていると店員さんがすぐ声をかけてくれるし、職場でも周囲の人がとても気にかけてくれる。人とのつながりを大切にする台湾の国民性には、本当に温かさを感じています。

安次嶺:私のミッションは、台湾と沖縄の「ビジネス交流」と「観光振興」の2つです。ビジネス面では、沖縄県産品の販路拡大を目指し、泡盛、シークヮーサー、塩や黒糖などの特産品を台湾市場でどう展開していくかに取り組んでいます。特に力を入れているのが、11月20日・21日に開催される「大交易会」という日本最大級の商談会です。現在、台湾企業に参加を呼びかけており、昨年以上の参加が見込まれています。観光面では、台湾から沖縄への直行便がほぼ満席状態で運航されており、非常にうれしく感じています。アクセスの良さや為替の影響もあり、沖縄は再び人気の渡航先となっています。


秋山:沖縄は独自の歴史や文化、国際性を持ち、日本の他地域と一線を画しています。そうした中で、台湾向けの観光プロモーションにおける具体的な目標やビジョンを教えていただけますか?


安次嶺:沖縄県は「世界から選ばれる持続可能な観光地」を目指し、2030年までに観光収入1.2兆円、総人泊数4200万人泊という目標を掲げています。観光収入はすでに9,000億円を超え、順調に推移していますが、人泊数はまだ課題が残っています。そこで私は「長期滞在型観光」を推進したいと考えています。台湾とは地理的に近く、リピーターも多いため、「台湾にはない体験ができる場所」として沖縄を提案したいのです。台湾の観光客は都市型観光やショッピングを好む傾向があり、ファミリー層も多いため、宿泊先としてはシティーホテルを選ぶことが多いようです。しかし私が目指すのは、那覇だけでなく、離島や沖縄本島北部などにも足を運んでもらうような周遊・滞在型の観光です。特に7月25日に開業したテーマパーク「ジャングリア」の完成に伴い、北部までの移動が促され、より広範囲での滞在が期待できます。


秋山:最近では、8月には宮古島へのスターラックス航空の直行便就航や、石垣島への5年ぶりの直行便復活といったニュースもあり、沖縄の離島と台湾との交流がさらに活発化しそうです。安次嶺所長は、これらの直行便にどのような意義を感じていますか?


安次嶺:直行便があるかどうかで、目的地へのアクセスのしやすさは大きく変わります。例えば、石垣島へは、直行便なら片道わずか55分ですが、那覇を経由すると4時間以上かかってしまいます。宮古島も同様で、直行便であれば1時間半程度ですが、経由便になると同様に4時間以上かかります。費用面でも直行便の方が抑えられ、利便性が高まります。石垣市と宮古島市は、それぞれ台湾の都市と友好都市提携を結んでおり、すでに密接な関係があります。直行便の再開・新規就航により、よりスムーズな移動が可能となり、今後の人的交流や観光交流の活性化がさらに進むと期待しています。


秋山:台北経済新聞の読者の中には、「友好都市って何が良いの?」と疑問に思う方もいるかもしれません。メリットを簡単に説明いただけますか?


安次嶺:友好都市同士が相互に交流することで、双方の魅力を一緒に発信・PRすることができます。観光や文化、教育など、さまざまな分野で連携が生まれ、相乗効果が期待できます。
秋山 個人的には、そうした「マインドの部分」にも価値があると感じています。子どもの頃から「あそこは友好都市だよ」と教わることで、自然と親しみを持ったり、成長してから実際に訪れてみようという気持ちが芽生えたりすることもあると思います。台湾と沖縄は、歴史的にもつながりが深いですから、そうした感覚はより強く影響しているのではないでしょうか。


秋山:宮古島・石垣島の魅力を、台湾の旅行者にどう伝えていきたいとお考えですか?


安次嶺:宮古島や石垣島など、いわゆる「離島」には、本島とは全く異なる魅力があります。特に伝えたいポイントは2つあります。1つ目は、自然の豊かさと海の美しさです。特に海の透明度や緑の鮮やかさは離島ならでは。海に入って遊ぶのはもちろん、海辺や公園でゆったり過ごすだけでも癒やされる場所です。2つ目は、独自の食文化です。島で育てられた牛や豚、鮮度抜群の海産物など地域ごとにブランド化された食材が多く、離島でしか味わえない食の魅力があります。沖縄そば一つ取っても、本島と離島では見た目も味も異なり、それぞれに個性があります。ぜひ、実際に現地で体験してほしいです。


秋山:石垣牛、本当においしいですよね。しっかりとした肉のうまみがあって、とろけるような食感は格別です。
安次嶺:やはり「本場の味」は違います。現地で味わえば費用も抑えられますし、多くの方に足を運んでいただきたいですね。


秋山:直行便の運航に合わせて、台北事務所としてどのようなプロモーションや現地連携を行っているのでしょうか?
安次嶺:せっかく直行便が運航していても、その存在が知られていなければ意味がありません。石垣島に関しては、直行便が5年半ほど運休していた期間がありましたが、ネット上には関連動画が多数残っており、一定の認知度が維持されていると感じています。一方、宮古島は今回が初の直行便就航ということもあり、台湾での知名度はほぼゼロに近いと見ています。そこで、よりインパクトのある形で魅力を伝えるべく、台湾のテレビ局9社と連携して、宮古島で現地ロケを実施しました。美しい海を紹介する映像が台湾のニュース番組で放送され、ユーチューブ上でも累計20万回以上再生されました。さらに、大手旅行会社6社と宮古島へ行き、旅行商品造成に向けた観光地や店舗の視察も実施予定です。今後は、離島の行政や観光協会とも連携し、より強力なプロモーションを展開していきたいと考えています。
秋山:テレビやユーチューブでの大きな反響は非常に良いスタートですね。「まず知ってもらう」というファーストステップがある程度成功したことで、次は「実際に来てもらう」というセカンドステージへと進んでいく、ということですね。


秋山:7月末まで台北・赤峰街で開催されていたイベント「赤峰沖縄季」について教えてください。

安次嶺:着任して間もない頃、赤峰街でまちづくり活動を行っている方々から「沖縄のイベントをやりたい」と声がけいただきました。彼らは沖縄が大好きで、何度も足を運んでいるとのことでした。「赤峰街を沖縄PRの場として自由に使ってほしい」との提案も頂き、夏の間、まるごと沖縄イベントに使えることになりました。6月半ばから7月末にかけて、石垣島の観光講座や、沖縄の伝統的な染め物・楽器の体験イベントなどを台北事務所主催で実施しました。
秋山:すごいですね。なかなかそんな話を頂けることは少ないと思います。赤峰街は立地も良く、若者からも注目されているエリアなので、今後、さらに話題になりそうですね。


安次嶺:実は3月ごろに木村拓哉さんが赤峰街を訪れており、さらに若者の来街が増えている印象です。木村さんはプロモーションイベントで台湾を訪れ、自身のユーチューブ動画の撮影の一環として、赤峰街の古着店を訪問されたそうです。


秋山:それは日本人だけでなく、台湾のファンも集まっていたのでしょうね。イベントで印象に残ったエピソードや、台湾のお客さまからの反響はありましたか?
安次嶺:台北事務所としても、これほど長期間のイベントを実施するのは初めてで、手探りの中での取り組みでした。初期は広報がうまくいかず、なかなか予約が伸びなかったのですが、フェイスブックを活用して地道に発信を続けた結果、最終的には毎回満席となる盛況ぶりでした。特に印象的だったのは「沖縄料理体験」です。台湾産のニガウリを使ってゴーヤーチャンプルーを作ったのですが、参加者からは「台湾で手に入る材料で、こんなに本格的な料理が作れるなんて!」と驚きの声が上がり、「家でも作ってみたい」といった感想も多く頂きました。
一回きりのイベント体験が、家庭の「定番料理」になるかもしれないそんな未来を想像すると、うれしくなりますね。


秋山:今後の展望や目標についてお聞かせください。
安次嶺:今後は、都市型観光から長期滞在型・周遊型観光へのシフトを進めていきたいと考えています。沖縄本島全域や離島を含め、もっと広範囲に滞在していただけるようなプロモーションに力を入れていきます。特に石垣・宮古路線の通年運航を実現させるため、継続的な情報発信を行っていく予定です。
秋山:旅行先を決める際、最近では個人で調べて行動する方も増えていますが、旅行スタイルの変化は感じますか?
安次嶺:はい、現在は完全にFIT(個人旅行)が主流で、沖縄県が公表しているデータでは、FITと団体旅行の比率は95:5とのことです。ただし、離島に関してはまだ認知度が低いため、旅行会社を通じて訪れる方が多い傾向にあります。そのため、旅行会社との連携も大切にしつつ、個人旅行者にも届くような戦略を強化していきたいと思っています。


秋山:今回、台北経済新聞として取材をさせていただいていますが、私たち「カケハシ」はインバウンド専門のウェブマーケティング会社として、FIT層の動向を非常に重視しています。今回の台北事務所の取り組みは、まずテレビ局を活用して話題性を確保し、ユーチューブなどのアーカイブを通して継続的な露出を図るなど、まさに今の時代にマッチした流れだと感じました。今後さらに個人旅行者へと広がっていくのではと期待しています。それでは最後に、台湾の皆さんへのメッセージをお願いします。
安次嶺:沖縄は、台湾から一番近い「日本」です。青い海を眺めながらのドライブ、おいしい食事、文化体験、そして人の温かさ。昼も夜も楽しめる魅力が詰まっています。ぜひ次の休みには「近い日本」沖縄へお越しください。現在、台湾の老舗レストラン「欣葉」とのコラボレーション企画として、8月31日まで沖縄料理フェアも開催中です。ビュッフェスタイルで沖縄料理やオリオンビールが食べ飲み放題となっており、店内も沖縄をイメージした装飾が施されています。台湾にいながら沖縄の雰囲気を味わえる絶好の機会ですので、ぜひ「欣葉日本料理」にも足を運んでみてください。

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