東京家政大学が3月3日から6日間、台湾や日本で食農教育インストラクターとして活動する須賀恵美さんと連携し、「食でつながる異文化交流 台湾食農文化プログラム」を実施した。
台北、宜蘭、屏東などの農場や朝市を訪問し、3月7日には国立師範大学(台北市大安区)で日台学生交流会も行われた。
日本では2005年に「食育基本法」が制定され、台湾では2022年に「食農教育法」が施行された。家庭、学校、地域、企業などが連携した体験型食育が実践されてきた。
同大ヒューマンライフ支援センターの内野美恵教授は「本学は農林水産省が主宰する『農業女子プロジェクト』の「はぐくみ校」となっており、農業女子メンバーである須賀さんや同大グローバル教育センターと協働して今回の研修を企画した。体験による食育・食農は生きる力を育む教育だと考え、『食べて、見て、体験して学ぶ』をコンセプトとした」と話す。

研修2日目に訪れた大花農場(屏東県)は、台湾最大の有機食用バラ農家。長年環境に配慮した土づくりを続け、有機バラの栽培だけではなく加工や観光を組み合わせた複合産業へと発展させてきた。2013年には自社の有機加工工場を設立し、バラの加工品を多数開発。こうした取り組みが評価され、台湾の行政院農業委員会が選出する農業分野の最高栄誉賞である「新農獎」を受賞している。
陳正廸さんは、「バラのシーズンは11月中旬~3月中旬。15℃~25℃ほどの気温が適している。冬は約90%が商品になるが、夏は暑さと虫により品質が落ちるため100%を堆肥にしている。毎朝日の出前が一番大きく美しい状態の時に収穫をしている」と説明した。

参加学生の岡田さん(管理栄養学科2年)は「バラを収穫するのは初めて。難しいと思っていたが、茎を優しくもち簡単にパキッと折ることができた。収穫したバラでさまざまな料理を作れることに驚いた。どの料理も見た目がきれいなだけではなく、香りもよく、おいしかった」と話す。

バラジャム作り体験では、その日の朝に収穫されたバラの花びらが使われた。学生の大栁さん(管理栄養学科4年)は「バラが食べられることに驚いた。体に良いバラを作るために、品種開発や有機農法など努力を惜しまない姿勢がすごい。私はヒマワリが好きなので、食用ヒマワリを使ったスイーツは作れないかとアイデアが浮かんだ」と笑顔を見せた。

昼食は農場内のレストランで提供。全ての料理にバラや農場で栽培された野菜、平飼い卵が使っている。色鮮やかな巻きずしやピザ、自家製ソフトクリームが並ぶと学生から歓声が上がった。

その後訪れた銘泉休閒農場(屏東県)では、約20ヘクタールの土地で有機パイナップルを栽培している。同農場は台湾から日本へ初めてパイナップルを輸出した農家として知られ「新農獎」を受賞している。「自然の草木と共存するパイナップル」をテーマに、農場内には生態系エリアがあり、さまざまな動物を鑑賞できる。収穫体験やパイナップルを使ったお菓子、料理のDIYを体験することができる。
3代目店主の呉堅銘さんは「台湾固有種の諸羅樹蛙(シュウラツリーカエル)などの生態を守るため、農薬や化学肥料を使わない有機農法に切り替えた。生き物の住処を守ることは、私たちの健康を守ることにもつながっている」と話す。
学生たちは、18カ月かけて育てられた完熟パイナップルを収穫。台湾には20種類以上の品種があり、そのうち8割以上が「台農17号(金鑽パイナップル)」とされている(台湾農業部農糧署2025年発表)。
今回収穫したのは、西瓜鳳梨(シーグァフォンリー)という希少な品種で、スイカのように巨大(平均4-6キロ、最大10キロ以上)で、重量級。一般的な台農17号の2~4倍の大きさで「パイナップル界の浩克(ハルク)」とも呼ばれる。
佐々木さん(管理栄養学科4年)は「パイナップルは木に実ると思っていたので、初めて畑を見て驚いた。収穫してみると想像以上に重く、丁寧に育てられていることを実感した。採れたてはとても甘くジューシーだった。実際に生産現場を見て体験することで、作ることの大変さや、生産者の思いなどを知ることができた。今後も感謝の気持ちを大切にし、食の大切さを伝えていきたい。」と意気込む。
収穫後、切り方講座が行われた。呉さんの妻、謝美蓮さんは「パイナップルは重力で糖分が下にたまるため、下部に濃厚な甘さがある。葉っぱに近づくにつれ酸味が強くなる。味の変化を楽しめる」と話す。

その後、農場で収穫された完熟パイナップルを使い、パイナップルケーキ作りを体験。高取さん(栄養学科4年)は「初めて作ったので、型の四隅までしっかりと生地を入れるのが難しかった。収穫から加工、包装まで体験できたのがとても楽しく、いい経験だった。初めての海外が台湾だが、皆さん優しくて大好きになった。作ったパイナップルケーキは食べる機会が少ない家族にプレゼントしたい」とほほ笑む。

研修3日目には、頭城休閒農場(宜蘭県)を訪問。「生命を尊重し、大自然を師と仰ぐ」という理念の下、自然を尊重した農業生産や農村文化の継承を行う。約120ヘクタールの敷地では果樹や草花、稲や野菜などを栽培。地域の教育機関や企業と連携し、さまざまな食農教育プログラムを行う。
林さんは「消費者がさまざまな視点から、食の背景や自然環境を学ぶ場を提供している。農場に自生する植物や栽培するハーブを使用し自然の姿を表現したスイーツも作っている。土の部分はティラミスで全て食べられる。農場を大きくすることより、地域の人や、企業などと隔てなく協力し学び合うことが、自然環境を守り、社会問題の解決につながると考えている」と話す。
農場内には、自社栽培や地元産の果物を醸造する酒蔵がある。学生たちは製法の説明を受け、約10種類を試飲した。
神保さん(管理栄養学科4年)は「環境を守り自然を生かした農法を、地域全体で協働しながら伝承しているのがとてもすてき。お酒はフルーティーで女性でも飲みやすく、種類ごとに味の個性があり面白かった。農場の方々や街の人の温かさを感じ、初めての海外が台湾で良かったと思った。購入したウイスキーは、ウイスキー好きの母に贈りたい」と話す。
4日目には、宜蘭迺菜市場を見学。迺菜市場のガイドを務める方子維さんは、自らを「少年阿公(若きおじいちゃん)」と称し、消えゆく伝統市場の文化を次世代や外国人旅行者などに伝える活動を行っている。2024年にイタリアで開催された世界農業観光アワードで、永続農遊創新類(サステナブル農業観光・イノベーション部門)を受賞。方さんのガイドを通じて、台湾のリアルな食文化や農村の知恵をより深く理解することができる。

5日目には国立師範大学との学生交流会が行われた。伝言ゲームやジェスチャーゲームでは英語・日本語・中国語が飛び交い、学生同士が交流を深めた。
その後、「日本の屋台を台湾に出店しよう!」をテーマにグループ発表を行った。事前研修で、日台の食農問題を解決でき、日本文化を知ってもらえる屋台をチームごとに話し合い企画した。学生は「規格外野菜の活用」「食品ロスの解決」についての関心が高く、各チーム日本の伝統料理と台湾文化を融合させた企画を提案した。
師範大学の陳さんは「日本や台湾では、農家が生産(1次産業者)、加工(2次産業)、流通・販売(3次産業)を行う6次産業が発展している。農産物を加工するだけでなく、体験や宿泊、教育プログラムなど多岐にわたる取り組みが行われていることを知り、驚いた。交流会では、母国語ではない英語で一生懸命思いや考えを伝え、真摯(しんし)に学び合えたことがとても良かった」と話す。

台湾の廃棄野菜を使って、日本のかき揚げを販売する企画を発表した小笠原さん(管理栄養学科2年)は「出店計画を通して、台湾の方、観光客や出店者など、多角的視点から食問題や夜市の理解を深めることができ楽しかった。他のチームも自分たちとは異なるテイストで企画をしていて、新たな発見もあり面白かった」と話す
師範大学卒業生の永野紀子さんはコメンテーターとして参加し、日台の視点から学生に質問やコメントをした。永野さんは「学生同士が言葉の壁を越え、思いを届けようとする姿と、互いに理解を深める姿勢に、国際交流の意義を強く感じた」とほほ笑む。

その後、寧夏夜市での交流会が行われ、文化と言語の交換が行われた。長谷川さん(管理栄養学科3年)は「台湾の学生が夜市でよく食べる食べ物を一緒に体験することができ、とても楽しかった。台湾では、香辛料やニンニク、パクチーなどを使った料理が多いという発見もあった。交流する中で中国語を教えてもらい、通じたときはとてもうれしかった。実際に体験することで、より理解が深まるということを忘れずにいたい。多謝」と話す。

台湾師範大学生の郭さんは「AIの登場により、言葉が通じない不便さは以前より少なくなったが、実際に日本語や英語でのコミュニケーションが取れるのか心配だった。しかし、翻訳機に頼らず自分の言葉で考えを伝えられたときは、とてもうれしかった。今回の交流会は夢のように短い時間だった。またこのような機会があれば、ぜひ参加したい」と意気込んだ。

今回のプログラムを通して、内野教授は「学生は、食で人とつながる経験を通じて、台湾の人々の懐の深さに感銘を受けていた。国際感覚を身に着け、SDGsに関する課題に気づけた様子。難しい時代をたくましく生き抜いてほしい」とエールを送る。
須賀さんは「人工知能の発展により、この数年で学習の形が大きく変わった。このプログラムを通して、日台共に学生自身が自分で考え、行動し、異文化交流ができたことで、大きな自信と成長につながったと感じた。言語や文化だけではなく、挑戦することの不安を乗り越え、やり遂げた経験は、今後の人生においても大切なこと。このプログラムを実施するに当たり、尽力いただいた多くの方々に心から感謝したい」と話す。
今回のプログラムが第1期となり、来年も実施する予定。
須賀さんは「農業は作物を栽培するだけではなく、アイデア一つでさまざまな挑戦ができる『食の総合職』。この食農文化プログラムが、学生たちの成長と将来の選択肢を広げるきっかけになればうれしい。今後も食や農を通して日台交流を行い、両国の食農の問題解決や発展につながることを期待している」と意気込む。
