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インタビュー:人気テレビ番組出身の旅グルメ系ユーチューブチャンネル「鬧著玩」

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 2007年に放送を開始したグルメ・旅を紹介する人気バラエティー番組「食尚玩家(Super Taste)」から舵を切り、2019年にユーチューブ業界に切り込んだチャンネル「鬧著玩(NowYouOn)」。今回、編集長・秋山と10年来の友人である制作プロデューサーのMilkさん、チャンネルMCを務める顔永列(イェン・ヨンリェ)さんをインタビュー。始動から間もなく直面したコロナ禍を乗り越えた方法や、日本地方都市が抱えるインバウンドの課題について話を聞いた。

秋山:チャンネルの紹介をお願いします。

イェン・ヨンリェ:「鬧著玩」の特徴はルーツがテレビ番組にあることで、テレビ番組制作のノウハウを駆使しています。ユーチューバーはネット発のインフルエンサーであることが一般的ですが、私たちのチャンネルにはテレビに出ている芸能人が参加しています。開設当時の2019年はテレビからネットにシフトした前例は少なかったです。

チャンネル創設時代は1年間ほぼ無給

秋山:制作陣もテレビ番組時代からのメンバーだったのですか?

Milk:制作陣は元々台湾で知名度のあるグルメ・旅行系テレビ番組「食尚玩家」で十数年一緒にやってきたメンバーです。ある時期にテレビ番組が休止したのですが、同じメンバーで番組制作を続けたいとの理念から、今のチャンネルを運営する会社を立ち上げました。

イェン・ヨンリェ:制作陣はテレビ番組で一緒にバカをやってきた人たちです。ロケなどで一緒にいた時間は家族よりも長く、絆も深いメンバーでした。テレビ局側の方針変更で番組が休止後、離ればなれになるのは残念だと思っていたんです。当時ネットのプラットフォームが急成長している時期だったこともあり、ユーチューブへの挑戦が始まりました。

イェン・ヨンリェ:1年目は苦労しました。元々テレビ番組という後ろ盾があり、回せる経費や人手などリソースが、ほぼない状態となりました。出資者は構成作家、ディレクター、カメラマンなど8人で、1年間全員無給で、情熱で何とかやっていました。一部のメンバーは本業と掛け持ちし、休日や退勤後に本チャンネルの仕事をこなしていました。

秋山:ずっと一緒に仕事をしてきた家族のような関係があったことで乗り越えられたんですね。

イェン・ヨンリェ:はい。2年目から収益も出始め、メンバーはチャンネル一本でやっていくことができるようになりました。

コロナ禍がきっかけでECにも

秋山:現在チャンネル登録者数は36万人ですが、開設から1年目はどのくらいファンを獲得できたのでしょうか?

イェン・ヨンリェ:1年目で10数万人ほどに増えました。ただチャンネルが軌道に乗ってこれからという時にコロナ禍が始まってしまったのです。海外旅行に注力する計画だったのですが、出国できない状況に陥りました。仕方なく国内旅行にシフトしたのですが、ファン数は思うように伸びませんでした。そこで収益を上げる方策として考えたのがオンラインショップでした。動画で台湾各地のグルメを紹介する中で、例えば美味しい店を見つけたら、オンラインショップで販売しないかと商談を持ちかけました。コロナ禍ではECが盛り上がったのが追い風となって、チャンネルを継続していくことができました。現在でも動画とオンラインショップの2本で事業を進めています。

秋山:ライブコマースも行ったのですか?

イェン・ヨンリェ:ライブコマースはまだやったことがありません。私たちは動画を通じて商品を発掘し、実際に食レポし、興味を持った視聴者をオンラインショップに誘導しています。これまでは台湾の商品が主だったのですが、2023年からタイや日本など海外の商品を拡大しています。

Milk:沖縄からいくつか商品を少量取り寄せて販売したり、タイ現地のデザイナーとも提携して受注販売をしたりしています。

秋山:これまで取り扱った商品で反響の良かった商品はどんなものがありましたか?

Milk:一番良かったのは彰化県にあるパスタ専門店「毒■義大利麺(■は病だれに隠)」の商品でした。隠れた名店で、私達のチャンネルを通じて販売したところ、初週の売り上げがNTD100万元突破と大盛況で、商品生産のため店舗を2週間休むほどでした。2024年には鬧著玩として初のコラボ商品を開発予定です。

イェン・ヨンリェ:お茶の名産地である台東で取り寄せたワインボトル詰めのお茶を販売した時には、NTD1,800元と高価だったもののすぐに完売しました。元々人気のあるお茶で、歌手の王力宏(ワン・リーホン)さんを起用したCMを撮ったこともあるようでした。

秋山:日本の商品で特に売れたものは何でしたか?

Milk:日本の食品を取り扱い始めたのは最近からで、大阪で紹介した長崎堂のカステラを限定販売したのですが、取り寄せた分はたった3日で完売しました。

秋山:今後も旅行とECの二本柱で進めていく方針ですか?

イェン・ヨンリェ:そのつもりです。食尚玩家時代から旅行とグルメの紹介を十数年やってきたこともあり、視聴者も信頼してくれています。視聴者層は35~45歳という消費支出の多い世代が最大を占めています。

リアルな感情を届ける

秋山:台北経済新聞を運営するカケハシは台湾から日本へ観光客を誘致するインバウンドが専門で、私自身は日本観光庁よりインバウンドの専門家として認定を受けて3年たちます。鬧著玩さんが紹介したような台湾人に人気が出る商材を多く取り扱っているため、今後機会があればぜひ鬧著玩さんに日本のインバウンドについて相談をさせてください。

Milk:喜んで! 2024年は日本を含む海外に注力する方針です。視聴者からは私達の旅行動画を見て、実際に同じコースで旅行したとのコメントも寄せられています。せっかくの旅行で失敗したくないというニーズがあるため、動画が旅行ガイドブックのような役割を果たしていると言えます。

秋山:テレビ出身のプロ集団だけあって動画のクオリティーが高く、楽しく拝見しています。

イェン・ヨンリェ:テンポの速さやインパクト重視のチャンネルが増えていますが、私たちはあえて動画時間を長く取り、観光スポットの紹介以外にも演者とスタッフの触れ合いを見せて、視聴者に親しみを感じてもらえるようにしています。世代に限らず家族全員が見ることができ、いつまでも楽しめる「家庭料理」のような動画作りを心がけています。あるファンからは食尚玩家時代から見ていて今は子どもと一緒に鬧著玩を見ているといううれしい声も寄せられています。

秋山:すてきなテーマですね。今はどのようなメンバー構成ですか?

Milk:イェン・ヨンリェさんとお笑い芸人の浩角翔起(阿翔、浩子)を含むテレビ時代からの男性MC3人に加え、オーディションで募集した女性MC5人(陳沐青、黄云音欠、Jessica、呉季王旋、臧■軒、■は草かんむりに内)で構成しています。実際には裏方のスタッフも動画に登場することがあります(笑)。

秋山:それも魅力ですね。アフターコロナを迎え、既に日本にたくさん行ったと思います。その中で台湾の視聴者が好む傾向は何でしたか?

イェン・ヨンリェ:視聴者はリアルさを好むと思います。私たちのチャンネルでは海外ロケで発生した毎日の出来事を記録し、その状況下の感情も映すようにしています。良い体験だけでなく、悪かった体験も盛り込んでいます。京都・鴨川でのロケで食べた料理が口に合わなかったことがあり、正直においしくなかったと伝えています。一方で店を批判するつもりはなく、店にはモザイクをかけて、風評被害の防止に努めています。

秋山:日本のコンテンツではどのようなものがウケますか?

イェン・ヨンリェ:食尚玩家時代に紹介した桜の花見や紅葉狩りなど、台湾で見られない日本ならではの風景の反響が良かったです。ほかにも新潟や北海道の小樽で紹介した雪見温泉が特に人気でした。鬧著玩として日本で行った場所はいずれもハイシーズンから外れていて、2023年に徳島に行った際にも阿波踊りが撮れれば良かったのですが機会を逃していました。台湾であまり知られていない祭りなので人気が出そうです。

Milk:今年3月に長野の野沢温泉のロケが決まっています。そこでの温泉はウケると予想しています。

秋山:今の日本の観光産業は、東京や大阪など有名な観光地はパンク状態に陥り、外国人観光客をなるべく地方へ誘導したいという目標があります。地方にもっと人が来てもらうにはどうすればいいと思いますか?

Milk:まず認知されることが大事です。メディアの露出を増やすべきで、どの世代にも魅力を届けられる映像コンテンツが適切だと思います。日本の交通は複雑で、外国人にフレンドリーではないところも課題です。アクセス方法が簡単でないと、その地へ行く気にならないでしょう。

イェン・ヨンリェ:外国語の案内を整備することですね。言葉が分からないと旅行のハードルが高くなります。以前韓国にいった時は、田舎のレストランや交通機関でさえ、ほとんど中国語の案内が添えられていました。

イェン・ヨンリェ:メジャーでないスポットを紹介する際、動画タイトルにそのまま地名を入れてもピンと来ないため、再生回数が伸びづらいです。そのスポット単体ではなく、大きな範囲でコースを設定するといいかもしれません。京都の旅と題して、台湾人にとってメジャーではない伊根町や美山町などを穴場スポットとして紹介したところ、見てもらえた前例があります。

おもしろい企画でインバウンドを盛り上げられる

秋山:読者に伝えたいメッセージはありますか?

Milk:私たちが日本で行ったことのない場所は、まだたくさんあります。依頼をお待ちしています。台湾人に好感を持ってもらえるよう尽力します。

イェン・ヨンリェ:日本のメジャーどころは紹介し尽くされているので、今後は小さなスポットをどんどん紹介していきたいです。食尚玩家時代に1週間かけて北海道から福岡まで新幹線で回るという企画があり、小さな街で半日過ごしたり、1泊しながら各地を巡ったりすることができました。単に観光案内するのではなく、興味をそそる企画が土台にあった方が良いですね。

Milk:昨年夏に実施した企画が良い例でした。6人の演者がそれぞれ順に日本の6都市を旅するというテーマで、6人で財布は共通とし、後に出演する演者ほど使える額が少ないというルールです。最後の都市、名古屋ではほぼお金が残っていないという状況でした。視聴者は私たちが限られた資金でどんな旅をするのかが楽しみで見ており、その中で花巻など台湾人に知られていない地域の知名度向上につながりました。何も従来のやり方にとらわれなくても良いのです。

秋山:企画のインパクトが大事になるのですね。例えば私の出身地、京都の福知山を紹介するとして、交通が不便な場所のため、キャンピングカーで行く旅なんてどうでしょうか?

イェン・ヨンリェ:キャンピングカーの旅もいいですが、何か別の要素も入れたいです。例えば「2024年の旅」と題して、旅中に運転できる距離は2024キロまでという縛りを設けてはどうでしょう。後半になるにつれ、残り何キロ走れて、どこまで行けるかという面白みが生まれます。コンテンツはこういった予想出来ない展開がウケると思います。

Milk:いい企画案なので、今後のネタとして実際に採用するかもしれません。食尚玩家時代に実施した、鉄道をすごろく形式で進み台湾を一周する企画もいいアイデアだったと思います。毎年夏恒例の人気企画で、夏休みに真似する学生たちが続出しました。鬧著玩では日本など海外でやってみたいと考えています。北海道と福岡でスタートし、チーム戦で東京タワーを目指す方法もあります。

秋山:とても面白そうな企画で確かに見てみたくなります。アフターコロナで日本のロケがどんどん増えそうですね。今後もより多くの台湾人の皆さんに日本の良さを伝えていっていただき、インバウンドを一緒に盛り上げて行きましょう。本日はありがとうございました。

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