ケーブルテレビ、国興衛視の番組「ビックリ台湾!(台湾好吃驚!)」のMCで知られ、親しみやすくユーモアあふれるキャラクターで台湾の視聴者を和ませる日本人タレント、松野高志さん。その人気に昨年は、テレビ番組の祭典「ゴールデン・ベル・アワード(金鐘奨)」の番組MC部門でノミネート。俳優としてもNetflixの人気ドラマ「華燈初上-夜を生きる女たち-」に出演するなど芸能界で存在感を高めている。台北経済新聞の編集長、秋山は今回、テレビでは語られることの少なかった、松野高志さんの台湾芸能界デビューのいきさつについてインタビューした。
秋山:台湾在住の日本人にはテレビでおなじみの高志さんですが、日本の読者に向けて自己紹介をお願いします。
高志:初めまして、松野高志と申します。台湾在住6年目で、タレント活動のほか俳優業、SNS運営などに取り組んでいます。
高志さんがMCを務めるトーク番組「好好聊日子」
秋山:高志さんは以前、劉高志という名で活動していませんでしたか? 中国語が流ちょうなので、最初は台湾人だと勘違いしていました。
高志:劉高志は以前使っていた芸名で、日本の事務所に命名してもらいました。
秋山:台湾に来たきっかけや、芸能活動を始めた経緯を教えてください。
高志:今年で32歳になりますが、27歳の時に語学留学で台湾に来ました。ニーハオ(イ尓好)しか話せないレベルから1年間勉強しました。元々日本で芸能活動をしていましたが、台湾へは語学勉強が目的で、機会があれば芸能界に挑戦したいといったスタンスでした。
秋山:高志さんといえば国興衛視のバラエティー番組「ビックリ台湾!」でMCをしているイメージが強いです。日本人が海外で主役となる番組を持つことは容易でないと思いますが、どのような経緯で今に至ったかを教えてください。
「ビックリ台湾!」新竹市立動物園でのロケ
「ビックリ台湾!」鄭文燦前桃園市長とのロケ
高志:語学勉強を経た後、幸運にもテレビ局の関係者から仕事の機会を頂きました。最初は番組テロップなど翻訳業務だったのですが、後のキャリアにつながればと思い引き受けました。以降番組の企画にも関わり、リポーターとして番組出演も始めました。実は当時、コロナ禍の影響で番組の制作費が削られ、内部の人間を起用したという事情がありました(笑)。
秋山:番組を作る立場として、意識していることはありますか?
高志:番組制作陣には面白い人がたくさんいたので、普段からコミュニケーションを取って、なるべく台湾人のユーモアを吸収しようと心がけていました。
「ビックリ台湾!」コロナ禍での撮影
「ビックリ台湾!」黄偉哲台南市長とのロケ
秋山:確かに、番組では日本人である高志さんが台湾人の笑いのツボを突いているのが面白いです。ちなみに番組制作の流れはどうなっているのでしょうか?
高志:まずは企画やテーマを決め、ロケ地を選定し、出演者や提携する店へのアポ取りなどを済ませ、撮影に入ります。裏方時代に、店に問い合わせした際、片言の中国語のせいで、何を言っているのか伝わらなかったこともありました(笑)。
秋山:高志さんのキャラクターも番組も、まさに日本と台湾のハイブリットですね。
高志:番組プロデューサーも、そういった方針で制作していました。
秋山:高志さんは、台湾人なら誰もが知るテレビ番組の祭典「ゴールデン・ベル・アワード」の番組MC部門に昨年ノミネートされたことが記憶に新しいです。表彰式の様子はいかがでしたか?
高志:正直、驚きました。最初何かの賞でノミネートされたと聞き、よく分からないままうれしがっていたのですが、それがゴールデン・ベル・アワードだと知って、思わず涙が出ました。人生初のレッドカーペットを経験し感動しました。
ゴールデン・ベル・アワード
ゴールデン・ベル・アワード
秋山:ノミネートされた理由は何だったのでしょうか?
高志:日本風のバラエティーで大げさなリアクションをするキャラクターなどが人気を獲得したと聞いています。それは番組内でも意識していたことでした。元々日本では漫画原作のいわゆる2.5次元の舞台を演じてきました。台湾のテレビ番組で当時の経験が延長線となって生きたのだと感じています。非常にありがたいことです。
秋山:次は入賞目指して頑張ってください。
高志:ぜひ! 初めはノミネートされただけで満足していたのですが、入賞者の発表直前になって、賞を取りたいという気持ちであふれました。賞は取れず残念でしたが、次回は狙っていきたいです。
秋山:ちなみに台湾の視聴者にとって高志さんは、「ビックリ台湾!」での明るくユーモアあふれるキャラクターで親しまれていると思いますが、プライベートの高志さんは一体どんな方でしょうか?
高志:昔はテレビでのキャラのようにパーティーなどに行っていましたが、今のプライベートの私はテレビとは違ってつまらない普通の男だと思います(笑)。普段は一つのことに集中して研さんする職人肌で、休日には仕事の動画について、どう編集すれば面白くなるか試行錯誤したり、演技につながるアクションのトレーニングをしたり、ロケに向けた体力作りのために山登りなどをして過ごしています。
秋山:普段のテレビの高志さんとは思えない回答で意外でした。台湾に来る前にも日本で俳優業をしていたのですよね?
高志:日本では元々18歳に原宿系雑誌の読者モデルとしてデビューし、20歳から2.5次元舞台の業界に入り、4~5年活動してきました。年を重ねるにつれ、新人俳優も増え、業界で生き残っていくのが大変に感じていたこと、幼い頃から海外で活躍するのを夢見ていたこともあり、現在の台湾の生活につながりました。
秋山:高志さんは、元宝塚で、現在台湾でタレントとして活躍する中原由貴さんと日本で同じタレント事務所に所属していたと聞きました。
高志:はい。台湾に渡る前に日本の事務所で月1回の中国語講座に2人とも通っており、当時から仲の良い関係です。その後、由貴さんには台湾で「ビックリ台湾!」へ出演してもらいました。由貴さんと台湾で再会した時は何だか不思議な感覚でした。実は私には由貴さんと同じ年頃の姉が、由貴さんには私と同じ年頃の弟がいて、私にとって由貴さんは第二の姉のような存在です。
秋山:高志さんがNetflixの人気ドラマ「華燈初上」で日本人の悪役「小林」を演じていたのを見て大変驚きました。台湾でも俳優業をしていたのですね。
高志:台湾に来たばかりの時、芸能界で知り合いを作ろうと思い、片言の中国語ながら、来台した日本人役者の撮影現場に通訳者として潜入したことがありました(笑)。そのかいあってディレクターと仲良くなり、オーディションを通じて「ちょい役」としてある作品に出ることができました。その作品には「華燈初上」にも出ている人気俳優のウー・カンレン(呉慷仁)が出演していたのですが、その後、華燈初上の現場で彼と会った際には、あの時の日本人だと覚えてくれていてうれしかったです。
「華燈初上」の日本人悪役「小林」
秋山:台湾でのドラマ撮影はどんな感じですか?
高志:正直、良かったです。今年初めに歴史物のドラマ撮影がありました。台本は撮影直前まで変更が入ったりするのですが、撮影の時間は、例えば8時間と決めたら、時間通りに進行し、超過すればその分、手当てを支給していただけました。一方、台湾で撮影された日本映画にも出演したことがあったのですが、その時はとてもハードでした。日本人の監督と役者以外に、スタッフは日台双方から参加していました。休みの間は台北の家に戻り、再度撮影現場に合流した時には、日本人以外台湾人スタッフは総入れ替えで継続しており、非常に驚いたことを覚えています。
秋山:ドラマなどでは同じシーンを異なるアングルから何度も撮ったりと大変ですが、台湾だと深夜に撮影するということもありますよね。
高志:はい。8月からも台湾と香港の合作による作品の撮影が始まります。私は主に台湾での撮影になるのですが、どうなるか楽しみです。
秋山:高志さんの今後の展望についてお聞かせください。
高志:これまで通り日本と台湾で、バラエティー、俳優、YoutubeなどSNSでも積極的に活動していく方針ですが、3カ国目への進出も視野に入れて準備しています。場所はまだ明らかにできないですが、英語ができるので、言語は基本、問題ありません。私の座右の銘はガンジーの「明日死ぬかのように生きろ。永劫(えいごう)永らえるかのように学べ」です。今年32歳になるので、着実に今後の活動を計画しています。
秋山:英語が堪能なのですね。
高志:大学生時代にインドでバックパッカーをしていたことがありました。今のようにスマートフォンはなく、手軽にパソコンも使えなかったので、英語が話せないと生きていけない環境でした。
秋山:日本に住む日本人の読者へ伝えたいメッセージはありますか?
高志:私が大学生時代の頃から、若い世代があまり国外へ出なくなったという話をよく聞きました。今般のパスポート保有率低下からも、その傾向が分かります。私は18歳で海外に出て、人生観が大きく変わりました。早いうちから海外に出て視野を広げ、怖がらずに挑戦をしていってください。
秋山:素晴らしいメッセージ、ありがとうございます。最後になりますが、高志さんは台湾に長く住んでらっしゃいます。後になって、台湾のこんな一面が良いなと思えたことはありますか?
高志:私はせっかちな性格で、台湾に来た当初、台湾人の歩くスピードや列の並び方など日本よりもルーズな面にいら立ちを覚えていましたが、台湾での生活が長くなるにつれて、逆に心に余裕ができ、台湾のそんな面も良いなと思えるようになりました。台湾人は親日家とよく言われますが、実は特別日本人に対して優しいのではなく、おおらかでマイペースな人間性を持っているのだと感じています。
秋山:台湾に長く住まわれた高志さんだからこその視点ですね。今回はインタビューへ快く応じてくださりありがとうございました。今後も頑張ってください!