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インタビュー:台湾男子柔道界のトップ選手、東京オリンピック銀メダリストの楊勇緯(ヤン・ヨンウェイ)さん

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2023年の杭州アジア大会(写真提供=教育部体育署)

 柔道選手の楊勇緯(ヤン・ヨンウェイ)さんは、2021年の東京オリンピック、日本人の髙藤直寿選手との決勝戦で銀メダルを獲得。大健闘だったことや甘いマスクが話題となって人気急上昇、一躍柔道界のスター選手となった。強化合宿のため良く訪日しており日本との縁もあるヤン・ヨンウェイさんに、台北経済新聞の編集長秋山が話を聞いた。

秋山:まず日本の読者やファンに向けて自己紹介をお願いします。

ヤン・ヨンウェイ:皆さん、こんにちは。私は台湾の柔道選手です。よろしくお願いします(日本語で自己紹介)。

母と兄の影響を受け柔道の道へ

秋山:柔道を始めたきっかけを教えてください。

ヤン・ヨンウェイ:元々私の母は柔道とレスリングの選手で、兄も柔道をしていました。母はスポーツ選手は苦労が絶えないことから、初めは兄が柔道をすることに反対していたんですが、熱意に押され、練習をサポートしていたんです。母と兄が道場で練習をしているのを私は見ていて、母と良い絆が芽生えて楽しそうだと思っていたことがきっかけで私も柔道を始め、兄に倣ってアスリート養成クラスに進みました。

秋山:そこからお兄さまと一緒に柔道を始めたんですね。ヤン・ヨンウェイさんは東京オリンピック直後、日本のSNS上やメディアから大きく注目を浴びました。試合後日本のファンからはどんな反響がありましたか?当時の状況を教えてください。

ヤン・ヨンウェイ:私は以前からよく日本へ強化合宿に行っていて、少し住んでいたこともあり、日本の環境には慣れていましたが、東京オリンピックは非常に特別な経験となりました。オリンピックがきっかけで注目していただけるようになり、日本のファンからはSNSを通じて応援メッセージなどを頂きました。台湾以外にも応援してくれるファンができたことがとても特別で、うれしかったです。

2020年東京オリンピック(写真提供=国際柔道連盟(IJF))

秋山:柔道のトレーニングのために日本で生活していたことがあったのですね。

ヤン・ヨンウェイ:そうです。初めは2017年に日本体育大学でトレーニングするため日本に3カ月ほど滞在しました。

秋山:台湾と日本で練習の仕方に違いはありますか?

ヤン・ヨンウェイ:台湾の柔道にはプロ制度がなく、選手皆が国家運動訓練センターに集められてトレーニングするのですが、日本の一流選手だと母校や、プロのためのトレーニング施設で訓練をしていますね。柔道は日本発祥であることから柔道人口が台湾より遥かに多く、一つの大学だけでも多くの柔道選手がいます。選手の数は一つの大学だけで台湾全体に相当するほどです。ですから台湾でトレーニングするには限界があります。

日本での海外遠征トレーニング

秋山:日本でのトレーニングにまつわるエピソードなどを教えてください。

ヤン・ヨンウェイ:私は台湾では選手として強い方ですが、日本だと私ほどの選手がごまんといました。当時日本へは日本語がままならない状態で一人で行っており、意思疎通がうまく取れない中、挫折を味わったことがあります。ですがトレーニングで海外へ行けることは誰にもあるわけではない貴重な機会でしたので、日本にいる間に必ず成長するんだと心を奮い立たせていました。言語面では日本語を学習し、選手たちと話すようにしました。トレーニング面では日本人の選手達と居残り練習をしましたし、コーチも熱心にサポートしてくれました。練習を重ねていくうちに周りも認めてくれるようになり、今も連絡を取り合う友達が多くできました。非常に思い出深い期間でした。

2017年の日本での海外遠征トレーニング時代(写真提供=澄禹行銷)

秋山:日本にいた期間、ヨンウェイさんが好きだった食べ物はありましたか?

ヤン・ヨンウェイ:玉子焼きが大好きです。好きになったきっかけは、ある日トレーニングの後で疲れていて、外は雪も降り、まるで映画のワンシーンのような情景でした。練習があまりうまくいかず、気分は落ち込み、ホームシック気味だったんですが、晩ご飯を食べに一人で立ち寄った食堂で、女将(おかみ)卵焼きをサービスしてくれました。とても心が温まり、すごく感傷的な気分になりました。それ以降、卵焼きが大好きになりました。

秋山:心温まるエピソードですね。ヨンウェイさんは日本でのトレーニング中に友達ができたと思います。交友関係についてお聞かせください。

ヤン・ヨンウェイ:当初日本で知り合った選手たちは皆卒業していて、今はコーチとなって柔道界で引き続き頑張っている人もいれば、自分の道を歩んでいる人もいます。日本にいた時はご飯に連れて行ってくれたりしました。今ではあまり頻繁に会えませんが、インスタグラムでフォローし合っているので、試合がある度に応援メッセージを送ったりしています。最近日本にトレーニングに行くことがあれば、母校に来て練習に付き合ってくれたりもします。共に練習すると当時一緒にトレーニングをしていた頃の懐かしい思い出が蘇り、とても良い時間を過ごせています。

2017年の日本での海外遠征トレーニング時代(写真提供=澄禹行銷)

秋山:ヤン・ヨンウェイさんは最近のアジア競技大会で、台湾史上初めて柔道で金メダルを獲得しました。その時の状況や感想を教えてください。

ヤン・ヨンウェイ:実は2023年上半期はスランプに陥り、成績が芳しくありませんでした。プレースタイルの調整や試行錯誤、総合的な技術鍛錬に奮闘していたため、アジア競技大会で金メダルを獲得できたことは大きな自信につながりました。スランプ脱却の契機となっただけでなく、2024年のパリ・オリンピックなど今後のさらに大きな挑戦と目標に立ち向かう勇気を得ました。ほかにも、コマツ女子柔道部に所属する台湾出身の選手、連珍羚(レン・ツェンリン)さんの存在も大きいです。私よりも前から、数々の国際大会で実績を挙げている正に手本のような方で、非常にたくさんの勇気をもらっています。アジア競技大会では私とそろって金メダルを獲ることができました。

秋山:スランプを脱却し、金メダルを獲ることができた成長のきっかけは何だったのでしょうか?

ヤン・ヨンウェイ:台湾代表のコーチを務める高市賢悟さんが指導してくれたことが大きいと思います。アジア競技大会以前にも日本の日体大へ海外遠征トレーニングをしていました。技の繰り出し方や試合中の留意点を学び、訓練を重ねて行く過程で、大きく成長できたと思います。大会でも学んだ技術を実践することができました。

2023年の杭州アジア大会(写真提供=教育部体育署)

秋山:グランドスラム東京では大変お疲れ様でした。休暇中はどう過ごされていますか。また2024年の目標についても教えてください。

ヤン・ヨンウェイ:2023年の上半期は台湾にあまりいれなかったため、オフシーズンの期間は講演会やイベントなどの仕事に出席しています。家族との時間を取ったり、しっかりと体を休めて。2024年のグランドスラムやパリ・オリンピックなど大きな大会に備えています。オリンピックで良い成績を出せることが目標です。

2023年度「体育運動精英奨(スポーツ・エリート・アワード)」で最優秀男性アスリート賞を受賞(写真提供=澄禹行銷)

秋山:講演会はどういう内容なのですか?

ヤン・ヨンウェイ:中学、高校、大学などで柔道に打ち込む若い世代に向けて、これまでの柔道人生について経験をシェアしています。

秋山:ヨンウェイさんの姿を見て柔道を始めたという人が増えたと思います。

ヤン・ヨンウェイ:このような現象を見たことがなかったので、とても喜んでいます。皆さんが柔道のことをもっと知って、チャレンジしてくれるようになったのは柔道界にとって画期的なことです。私にとって柔道は単に相手を投げるだけのスポーツではありません。柔道を通じて養うことができる精神が一番大事で、それには人生を変える力があります。

母校での講演イベント(写真提供=新民高中)

秋山:ありがとうございます。来年の目標に向けて自分の中のテーマを聞かせてください。

ヤン・ヨンウェイ:2024年で肝心なのはパリ・オリンピックで、金メダルを獲ることですね。

大好物は焼き肉

秋山:ヤン・ヨンウェイさんがこれまでに行ったことのある日本の場所でオススメのスポットはありますか?

ヤン・ヨンウェイ:日本にいる時に絶対行くというような場所はないんですが、ディズニーランドやユニバーサル・スタジオ・ジャパンが個人的にお薦めです。作り込みが非常に細かく、まるで別の世界にいるような気分になれますし、子ども心がくすぐられリラックスできます。誰と行っても楽しいですし、羽を伸ばせる場所です。テーマが絶えず変わりますので飽きないですし、一日では遊びきれない広さですから、行く度に異なる体験ができます。

2021年の日本旅行(写真提供=澄禹行銷)

秋山:日本のグルメはどうでしょうか?

ヤン・ヨンウェイ:焼き肉が大好きです。どこの店で食べてもおいしいんです。日本に行ったら焼き肉は外せないですね。

秋山:焼き肉で最初に頼む部位はどこですか?

ヤン・ヨンウェイ:牛タンはマストです。焼き肉以外にも、ラーメンが大好きです。用賀駅の近くにあるラーメン店「らぁ麺 ようが」が記憶に残っています。ハマグリで取ったスープが絶品でした。

秋山:日本のファンに向けてメッセージをお願いします。

ヤン・ヨンウェイ:日本のファンの皆さんの応援に感謝しています。これまで私がどこに試合へ行ってもフォローし、注目し、サポートしてくれていることをとてもありがたいと思っています。試合中も日本の皆さんの応援ははっきりと私の耳に届いていて、すごく感動しています。本当にありがとうございます。日本の皆さん愛しています。

秋山:2024年のパリ・オリンピックは金メダル目指して頑張ってください。応援しています。

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