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インタビュー:Netflix「華燈初上」ジャンハン(江瀚)役で話題の俳優 鳳小岳さん

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1980年代の台北・林森北路の日本人向けスナックが舞台となっているNetflixドラマ「華燈初上」のシーズン3の配信が3月18日、始まった。公開日から台湾地区での視聴ランキング1位を記録している。主役の一人で物語のキーパーソンであるジャンハン(江瀚)を演じた鳳小岳さんを独占インタビューした。

秋山 俳優デビューまでの経緯を教えてください。 鳳小岳さんの父は英国のウェールズ人、母親は台湾で有名な舞台芸術家さんだと聞いていますが…。

鳳 そうですね、僕の母は台湾で自分の劇団を持っていました。なので、子どもの頃は母の劇団と共にいろいろな場所へ行ったり来たりしていました。母親に劇場へ連れて行ってもらうのが好きで、舞台の設備や照明に触れるなど、子どもの頃から舞台のそばで過ごしました。そんな環境で育った僕ですが、僕が俳優になるのは全く別の話です。「両親がアーティストだからといって、自分も自然とアーティストになるというわけではない」と子どもながらに思っていました。自分で俳優をやろうと決めたのは20歳過ぎて、学生を卒業してからのことです。ほとんどの時間を台湾で過ごした僕ですが、卒業後にイギリスへ戻り故郷を見てみたいと思いました。同時にイギリスの演劇学校に通ってトレーニングを受け、その後また台湾に戻ってから俳優の仕事を始めることになりました。

 

秋 今回のドラマ、「華燈初上」はNetflixということもあり、台湾だけでなく日本やイギリスなど世界中で作品が見られていると思いますが、出演のオファーはどういった経緯だったのでしょう。

鳳 オファーを頂いた当時はコロナの流行が始まったばかりの頃でした。台湾のコロナ感染状況は、他の国に比べて非常に落ち着いていたので、2020年から2021年にかけて、台湾でできることはたくさんありました。その頃、コロナの影響で、普段外国で仕事をしている人たちもみんな台湾に戻り始めた頃で、ちょうど僕も台湾に戻っていろいろなことに挑戦してみようと考えていました。僕以外のキャストも、同じように台湾に戻っていて…。さまざまな点が線になったような、そんなパーフェクトなタイミングでした。そんな経緯もあり今回のオファーを受けました。

秋 コロナ前は海外で仕事をしていたのですか?

鳳 コロナ前は、中国での仕事や、台湾の仕事でも台湾を離れた場所での撮影が多かったです。2019年の終わりには僕はカナダのケベック州モントリオールで撮影していました。その撮影が終わって台湾に戻ってきた頃に、コロナの流行が始まりました。なので、全ての物事が偶然ではあるけれど必然に感じました。

秋 いろいろなタイミングが重なって今があるわけですね。

鳳 本当に。神様からもらったプレゼントだと思います。

秋 今回舞台となったのが、1988年の日本で言うバブル期の台湾ということですが、ファッションや生活、考え方など現代とは違う部分もあるかと思います。設定背景を聞いた時には、どのように感じましたか?

鳳 時代劇を撮影する時も、よくこの質問をされます。皆さん、興味があるようですね。私はこれまでも、異なる時代の作品をいくつも撮影してきましたが、コアとなる部分は結局人間の感情だということです。感情というものは何千年も前から変わらないものですから。なので、まずはこの役の人物の欲望は何なのか? を理解するようにしています。欲しいものは何? これが出発地点です。
環境や時代背景の、細かなディテールについては監督や制作チームが考えてくれます。技術さんたちはそれに合う道具を用意してくれ、スタイリストさんはその時代の服を用意してくれ、ヘアメークさんに髪とメークはお任せします。みんなでそれぞれ分担して完成させていきます。では俳優の役割は? 俳優は何を用意すれば良いのか? それは、衝動と直感です。これがコアの部分です。これを自分の中ではっきりと具現化できれば、どんな時代の演技でも、その役柄になることができます。

秋 つい先日、第3シーズンが始まりましたね。個人的にも、そんなミステリアスな作品である「華燈初上」にドハマリした日本人の一人ですが、早速第3シーズンを拝見しました。ジャンハンは第1シーズンから自由奔放でありながらも、どこか秘密めいたものを持つ、非常につかみ所のない人柄に感じました。そして非常にこの物語のキーマンのように個人的に感じるのですが、実際にジャンハンという人間はどんな方なのでしょうか? お答えできる範囲内で結構です。感情の変化を教えてください。

鳳 僕は、その役の出発地点(ルーツ)が重要だと考えています。ルーツを設定し、その後は玉ネギのように分厚い皮を剥いていって、その役のコアな部分を表現していきます。
ジャンハンは児童養護施設で育った孤児です。演じる前に、あの時代のことをいろいろな人に聞きました。孤児で育ったという先輩にも出会いました。そして、その人の波乱万丈な人生のストーリーを聞いて、役作りに生かしました。児童施設の子どもたちは幼い頃から多くのことを失い、家族の幸せを知らずに育っています。ジャンハンも幼い頃から苦労して育ちました。児童養護施設を出た後にテレビ局の仕事などをして、世の中にはこんなにたくさんの誘惑、利益関係、陰謀があるんだと知ることになりますが、それに向き合う準備ができていなかった。山の上の児童養護施設にはなかったそれらが山の下にあった。そんな環境下で社会の立場などを目の当たりにし、自分を見失います。これまでも人生で辛いことを経験してきているので、これまで自分が手に入れられなかったものを手に入れたくなってしまいました。

秋 第3シーズンの2話あたりで「自分の過去は悲しみじゃない。過去があってこそ今の力になっている」といったセリフがあったと思います。僕はちょうどその回を見たばかりなので、心に響きました。では、ドラマ以外の、鳳さんが好きな日本人ファンが聞きたいであろう少しプライベートな質問をさせてください。鳳小岳さんが今ハマっていることやルーティンなどがあれば教えてくだい。

鳳 僕はずっと、この役者という仕事にハマっています。まだまだ若い俳優ですので、演劇においてできることはまだまだあり、いろんな役にチャレンジしたいと思っています。演劇とはチャレンジだと思いますし、僕自身まだまだ修業中の身で、この(取材を受けている)場所は僕のレッスン室ですが、この場所でニューヨークから渡ってきた演劇プログラムの特訓をしています。それは「マイズナーテクニック」というもので、1920-30年頃にアメリカで生まれて、ニューヨークで広まった演技の特訓方法です。それが台湾へやって来て、今はこの特訓を始めて2年目です。多くの生徒を集め、オランダやニューヨークの講師を呼び、日々演技力を磨いています。

秋 この仕事が大好きなんですね。役者の仕事は感情、コアだとさっきおっしゃいました。そこで質問なのですが、華燈初上の撮影はもう終わっていると思いますが、時々ジャンハンの精神が心の中から湧き出てくるようなことがあったりするのですか?

鳳 これは説明が難しく、「絶対にない」とも言いにくいことなんですが、演技とは「プレー」している状態です。英語で観劇を誘う時だって「let’s go watch a play」と言いますね。「プレー」という概念を持っていて、演技はリアルではないと自分でも思っています。でも演技をする場面ではリアルな感情を伝えないといけない。このことを切り分けて考えれれば、あとは簡単です。英語だと、「You put your character on,so you take off」という言葉の通り、切り替えですね。

秋 鳳小岳さんの役者としてのこだわりや信念を感じました。ありがとうございます。話が変わりますが、今コロナで海外旅行ができない状況だと思いますが、これまで日本に行ったことはありますか? 日本の好きな食べ物などあれば教えてください。

鳳 多くの台湾人は皆日本のことが好きでしょう。台湾に住んでいれば、日本の文化に触れ合う機会は多くあります。僕はデビューしたばかりの頃、仕事で北海道に行く機会がありました。沖縄も好きです。本州とは異なる雰囲気がありますね。沖縄は台湾に近しい部分があると思います。空気、太陽、植物。日本人の友人もたくさんいます。数年前に日本人俳優と仕事をしたこともあります。日本の食べ物も大好きです。特に家庭料理を食べたときに非常においしいと感じました。外食と家で食べる料理は全然違いますよね。ラーメンだって、家で何時間もスープ煮込んだりしないでしょう? 台湾に遊びに来ていた日本人の友達も、台湾に長期間居ることになったら台湾にある日本の家庭料理を探してましたしね。僕は家庭で食べる料理が好きです。日本人はラーメンを食べるイメージが強いので野菜を食べないのかと思いきや、そんなことありませんよね。家庭料理には野菜はたくさん使われていますし。北海道に撮影に行ったときに、日本の農業はすごくこだわりを持っているなと感じました。

秋 コロナが明けたら日本でいきたいところはありますか?

鳳 京都に行きたいですね。

秋 僕、京都出身ですよ。

鳳 そうなんですか。京都へはすごく行きたいです。

秋 もし京都に来たときは、ぜひ案内させてください。

鳳 京都は素晴らしいものがいっぱいありますよ。台湾人はコーヒーを飲むの好きですが、京都にはこだわりのコーヒーがありますね。僕の家の近くに住んでいた日本人の友達は、元々台湾でカフェをしていましたが、今は京都でカフェをやっています。あ、あと僕は日本の流行音楽「JPOP」が大好きです。最近はMONDO GROSSOをよく聴いています、坂本龍一とのコラボソングはめちゃくちゃすてきですよね。僕は以前バンドをやっていたので、日本のバンドにも非常に思い入れがあります。ゆらゆら帝国、マキシマム ザ ホルモンなど、よく聴いていました。

秋 そうなんですね、僕もMONDO GROSSO大好きです。では次回、日本に来られた時にはライブにも行きましょう。最後に、華燈初上を見ている日本人、鳳小岳さんのファンに一言頂けますか。

鳳 皆さまの応援に感謝しています。日本の皆さんがこのドラマに注目してくれているのもうれしいです。今後もよい作品を日本の皆さまにお届けしたいです。

秋 今後はどんな鳳さんを見られる機会があるのでしょうか?

鳳 今後、ミュージカルが控えています。ウーバイ(伍佰)のバンド、チャイナブルーの30周年を記念した作品で、台北流行音楽センターで6回公演の予定です。僕は音楽を作るのが大好きなので、この機会にとても感謝しています。この作品はロック音楽劇で、現在、チケット発売中です。後は昨年撮影した単発作品が多いです。コロナを乗り越え、ここ1~2年で台湾の演劇界はまた活発になってきています。いろいろと国際化してきているので、日本の皆さんにもお届けできるチャンスがあると思います。

秋 それはとても楽しみですね。今日はありがとうございました。

鳳 こちらこそ、この機会を頂けて光栄でした。ありがとうございました。

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