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インタビュー:ブリーズアトレ取締役(董事):小森大資さん

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台北を拠点に高級ショッピングセンター(以下SC)を開発・運営する「ブリーズグループ」(以下ブリーズ)は2019年、JR東日本グループの「アトレ」と合弁し、アトレのグローバル1号店となるSC「微風南山atre(以下、ブリーズアトレ)」を開業。今年4月にブリーズアトレを経営する「ブリーズアトレホールディングス」の取締役に就任した小森大資さんに話を聞いた。

秋山:まずはプロフィールとこれまでのキャリアセオリーをお聞かせください。

小森:出身は福岡県です。3年前、台北に仕事の拠点を移しました。世代的には団塊ジュニアです。大学2年の時、授業で「君たちの卒業時期の日本は大不況」と聞かされ、親友と英語習得と卒業時期の延長を目的とした海外留学を計画。休学してオーストラリア・クイーンズランド州、ゴールドコーストにあるボンド大学の英語集中課程に入学しました。1994年から翌95年まで、青春時代の最後の1ページを海外で過ごすことになり、台湾や韓国、香港、シンガポールといったアジアや南米から来た友人ができました。当時、日本人学生と比較して、アジアや南米の留学生は富豪の子女が多く、一種の経済格差を超えた友人関係が形成されました。現在のブリーズグループのオーナー家族との縁は、この留学時代に築かれたものです。

一方、私はゴールドコーストで、当時日本ではまだ珍しかったオープン型SCや、マルチカルチャーな街の風景に出合います。さまざまな国の人たちが開放的に楽しく過ごす様子を目の当たりにして大変感銘を受けました。生まれ故郷の福岡も、いつかこのような国際的な街にしたいと、将来の夢が芽生えたのを覚えています。帰国した私は、地元のタウン情報誌の出版社に就職します。社会人スタートの時期が遅かった私は大変苦労しますが、メディアの視点からまちづくりに携わる貴重な経験をしました。たくさんの野心的な人たちの思惑が絡み合いながら街が形成される仕組みを見て、さらにまちづくりに興味が湧いていくようになりました。

その後30代前半で夢がかない、念願のデベロッパーに転職します。キャナルシティ博多(以下、キャナル)を開発・運営している福岡地所グループです。主力施設のキャナルは開業当時(1996年)から国内外で注目された大規模開発で、街のランドマーク開発の成功例として世界から注目されていました。入社後はキャナルに携わり、ようやく私のキャリアの軸を作ることができました。一方、台北では2001年に台湾初の大型高級SCとして、ブリーズ・センター(微風広場)が開業します。国は違えど、ブリーズもキャナルも、当時欧米から輸入されたSCビジネスのアジア先発モデルで、同時代性を感じます。余談ですが、ブリーズとキャナルは一時期、相互的な取り組みを行ったことがあり、博多祇園山笠がブリーズセンターに展示されたこともあります。縁とは不思議なものだと、つくづく思います。

しばらくして、ライフスタイルの変化、eコマースの成長などで、日本国内でのSC開発が徐々にスローダウンし、40代に突入した私は年齢的にキャリアを見直す時期に入ります。2015年からグロービス経営大学院に通いMBA(経営学修士)を取得しました。志を持つ仲間たちと出会えたことで、未来のキャリアに野心を抱くようになりました。その頃、世間では海外からの日本へのインバウンドが盛んで、街には外国人であふれていました。そんな環境下で、海外市場調査のため、2017年、出張で久しぶりに台北に来るチャンスに恵まれました。

・ターニングポイント:アトレの台湾進出

小森:出張から帰ってきて半年もたたずに、日経新聞でアトレがブリーズと合弁し、アトレが台北に進出するという記事を目にします。程なく日本人を雇いたいから、とブリーズから誘いを受けました。運命を感じましたが、福岡の仕事にも未練があったので、随分悩みました。ある日、外国人でにぎわうキャナルを眺めていたら、ふと、留学から戻った時に描いた「福岡を国際的な街にしたい」という夢がある程度かなったではないかと感じました。今後は、逆に自分がグローバルな人材として成長する。今回の話は海外キャリアに挑戦する好機だと確信し、転職を決断しました。さすがにコロナ禍は誤算でしたが(笑)、今でも決断が間違っていたとは思いません。

・ブリーズでの仕事
秋山:現在はどのような仕事をしていますか?

小森:グループにおける対日事業全般を担当しています。具体的には、まず日本からの新規投資の誘致あるいは拡大です。ブリーズはSC開発を主力として国内外に大小複数のカンパニーで構成される企業群であると同時に、オーナー資産を運用する投資会社でもあります。従って、日本企業のM&Aや技術、ブランドなど優良な投資案件を提案することも私の仕事です。

もう一つの大事な役目は「ブリーズアトレ」事業の活性化です。アトレと三井物産がアトレ海外進出のために設立した「アトレ・インターナショナル」とブリーズが合弁し「ブリーズアトレホールディングス」が誕生しました。2019年1月に開業3期目を迎えましたが、そのうち1年半が日本の新型コロナ禍の期間と重なりました。現在、日本からの誘致が難しい一方、既に現地法人を構えるビームスやユナイテッドアローズ、アーバンリサーチのようなアパレル各社、マツモトキヨシ、カルディなど日系企業とのリレーションを強化しています。東京のアトレは主にOLをターゲットに上質な暮らしを提案していますが、台湾でも同様のコンセプトで、上質なカフェの導入など、アトレらしい店舗構成を心掛けています。理想は、ブリーズの高級店との融合したまとまりの良いSCです。一方で、台湾最先端の流行やブランドの日本進出支援も視野に入れています。

秋山:キャリアの話をお聞きし、さまざまな業種を経ている小森さん自身の根底には「ワクワクを提供したい」という思いがあるように感じます。

小森:仕事柄、その時代や、その土地で営まれる人々のライフスタイルへの興味が尽きません。ファッション、エンターテインメント、ビジネスだけでなく、家族のあり方や恋愛、結婚観の様変わり、子どもたちの教育環境など…。日々そうしたものに関心を寄せています。移り気で欲張りな、不確かな人間という存在が好きなのだと思います。台湾の方を含む外国人たちと接していても、それぞれ、さまざまなバックボーンがあり、彼らが何を考え、その目にどう映っているのか?と思いをはせて、言葉が通じない分、想像力を駆使してコミュニケーションを図っています。また、日本人らしい細やかな感性を大切にして、アートや音楽、美しい風景に触れることを心掛けています。国際ビジネスに対していつも的確な判断ができるよう、人の心に響くものは何か、普遍なものは何かを考え、常に視野を広く持つことが大切だと実感しています。

日本と台湾のビジネスの未来

小森:日本企業にとっては親日の台湾市場が魅力的に映りますが、台湾から見れば日本企業の進出は歓迎である反面、自分たちの商売敵でもあります。郷に入る日本企業が台湾の商習慣やビジネスマナーについてある程度の習得が必要なのと同様に、日本のビジネスマナーを台湾企業として整備していくことも大切だと感じています。台北は、ほぼ日本同様の生活ができる珍しい都市です。豊富な輸入品だけでなく、台湾人による日本型ライフスタイルの追求もあり、日本と台湾がシームレスにつながっているように感じるのは、親しみ合う日台ならではの現象だと思います。

 最近の関心は「日台ライフスタイルの高度な融合」です。アート、コンテンツ分野はインターネットで一瞬で世界を駆け巡りますので、文化的な融合が起こりやすい。昨年の「鬼滅の刃」の台湾での大ブームは象徴的でしたし、街なかのコスプレのクオリティーも高かった。当社EC事業のイメージキャラクターを務める人気ラッパー、OZI(OはΦ)は日本のアーティストとコラボレーションしています。アニメや音楽の分野で東京×台北のコラボレーションは、このまま一気に加速していくものと感じています。
もう一つの分野は「食」です。台湾でも、すし、うどん、うなぎ、天ぷら、とんかつ、カレーなどは一般化していますが、ハンバーグやビーフシチューなどの洋食はまだ充分に浸透していません。一方、最近は台湾人料理人たちの日本食の腕前は目を見張るものがあります。恐らく数年後には「台湾人が考える上質な和食」が登場するでしょう。日本でもタピオカ、台湾カステラに続く台湾グルメを模索する気運があります。日本には台湾にはない台湾ラーメンというのもありますから、日本人が考案する台湾料理の未来も明るいと思います。

いずれにしても、先進国並みに豊かになり、さらに成長する台湾と、高度に成熟した日本が、未来を共に歩むためには、互いの高度な文化融合がポイントで最後の伸びしろだと思います。日本文化を台湾が、台湾文化を日本が相互にアレンジし合うことによって、世界にはまたとない新しいカルチャーや技術が生まれると信じて疑いません。

・国境なき生活
秋山:ご家族は日本にいらっしゃるそうですが、国境を越えた家族との生活はいかがですか?

小森:新型コロナによる規制のため、現在は台北にとどまっていますが、そもそもは福岡と台北のデュアルライフ(2拠点生活)を志向しています。以前は、普通に月に1、2度福岡に帰っていました。コロナ禍の現在は、毎日家族とオンラインでコミュニケーションを取っています。皮肉なものですが、通信技術の発達により、福岡にいた頃よりも、日々交換する情報量は増えました。子どもたちの成長に直に触れられない一抹の寂しさはありますが、幸い2人とも男の子なので、外国で働く父親の背中を見て大切なものを感じとってくれたらなと成長に期待しています。

また、福岡人として、現在もアジアのゲートウェー都市を標榜する福岡のために貢献したいと考えています。特に、グローバル創業・雇用創出特区でもある福岡市に、IT分野やスタートアップで先行する台湾にいる福岡人としてできることは何か、同郷の友人たちや(台北にいる)グロービスの仲間たちと一緒に模索しています。九州と台湾の交流促進や、2箇所の経済発展に尽くしていきたいと考えています。台北に来て3年がたちましたが、環境や生活にも随分慣れました。同じ台北で活躍する日本人の皆さんとの交流や、日々オンラインで連絡し合う日本の友人との会話を通じて感じるのは私だけでなく、近い将来、多くの日本人が国際ビジネスなどと肩肘を張らず、ごく自然に海外と日本の多拠点でビジネスや生活をする、そんな未来が、もうすぐそこに来ているというワクワク感だけですね。


秋山:「20年前には無かった日台間の展開スピード」そして「食育」、「融合から生まれるのびしろ」など、さまざまな要因が重なり合って、今まさに新しい展開が発生しているのだと、その最前線に「ブリーズアトレ」さんがいらっしゃるのかなと、話を聞いていて大変ワクワクしました。本日はありがとうございました。

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